作品8句『酒一壺』~「俳句四季」2019年7月号

東京四季出版「俳句四季」7月号、作品8句のページから。

  『酒一壺』   国光六四三
 跡継ぎの手入れおほきな松の花
 捨畑の隅に樒の花盛ん
 ひと恋ふるあやふさ源平桃の花
 衰へし椿落つるも落ちざるも
 薬缶おく三畳敷の花筵
 酒一壺我が身にまとふ花の影
 テーブルの傷なぞりゐる花疲れ
 夜桜の篝の消えて鬼の闇

いずれも春の花の句。
愚の骨頂、蛇足であることを承知の上で、ブログらしく饒舌に、自句解らしきものを書いてみます。
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第1句-
松の花は雌雄同株。古くは百年に一度しか咲かないと考えられ、そんな花が今年も咲いているというので、長寿を祝う歌に詠まれたとか。
第2句-
樒の花は仏花用。かたまって咲く黄白の花は意外なほど可憐で妖しい。村内に空き家、廃屋が増えて、放棄田や捨て畑も珍しくなくなった。
第3句-
神戸の生田神社で、源平桃の花を見かけた。不思議なことに一本の木に紅白の花が混ざり合って咲く。その前で、男女が写真を撮っていた。
第4句-
椿の花ははらはら散らず、全体がまとまって落ちる。山頭火も「笠へぽつとり椿だつた」と詠んだ。ところが、枯れたまま落ちない花もある。
第5句-
京都の夕べ。小川の上に個人が設えたらしい小さな川床(ゆか)で、花見の準備が進んでいた。デンッと薬缶だけが先に置いてあった。
第6句-
唐の李白に「月下独酌」と題する五言古詩がある。独りで酒壺を抱えて花見をしていたら、月と影と自分とで三人になったと詠う。
第7句-
京都の百万遍、京大北門前に「進々堂」という老舗の喫茶店がある。店内には作業台みたいな大きな木製のテーブルが置かれている。
第8句-
じつは原句をつくったとき「花篝」という便利な季語のあることを忘れていた。下五にあれこれ言葉を措いてみて、やっと「鬼の闇」を得た。
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by tsukinami_819 | 2019-06-25 06:43 | 著書・寄稿 | Trackback | Comments(0)
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